「梨香、帰ろう」
私にそう声をかけてきたのは、同じクラスの杉本杏香と沢村エリカだった。
私は頷いて、自分の荷物を手に教室を出た。
「杏香あんた、カレシ良かったの?」
エリカが杏香に訊ねていた。
「昨日も置いて帰ったのに」
「ああ、うん。順平、優しいから」
「それならいいんだけど」
杏香には最近、カレシができた。
隣のクラスの、木下順平。
彼と同じ中学の出身である私は、杏香に協力を強いられた。
そんな事をぼんやりと思い返していると、不意にエリカが私の後ろに身を隠した。
どうしたのだろうと思って見てみると、私たちの少し前方に、隣のクラスの男子、佐藤類の姿があった。