こんな些細な事に期待してしまった自分を実感して、さっきまでの意気込みが小さくなっていく。
素直な気持ちを伝えて、きれいな思い出にしようと思ってたのに。
すぐにはそうできなくても、いつかできればいいって、そう思えてたのに。
あの爆音を響かせる黒い車も
運転する樹の横顔も
座り心地の悪いあの助手席も
やっぱり、全部を自分のものにしたいと思ってしまった。
たった、あの音だけで、あたしの中が樹でいっぱいになった。
溢れ出すほどに樹で……
じわりと浮かんできた涙に、あたしは脚を踏み出す。
……樹のマンションに向かってじゃない。
駅へと向かって。
だって、告白して振られたら、本当に樹との関係が終わっちゃうから。
もう……会う用事がなくなっちゃうから。
『会いたいから』
そんな理由は、きっと1回しか通じない。
それを使ったら、あたしの気持ちは自動的に樹に伝わってしまって……振られる。
そうしたら全部が終わっちゃう。
全部が思い出に変わっちゃう。
あたしは、まだ思い出にしたくない。
まだ、まだ……諦められないもん。
『オレの事好きになるなよ』
樹の声が、何度も頭に繰り返される。
樹がなんであんな約束をしたのか、考えれば考えるほどあたしの想いが惨めになってしまって……
届かない想いに悲しくなってしまって……
苦しくなった胸を抱えながら、駅までの道を歩いた。
『好きになったって応えられないから』
そう続く声が聞こえてきそうで……耳を塞ぎたかった。
人を好きになる事が無駄だなんて思わない。
悲しい事だなんて思わない。
だけど……
想いが届かないのは、やっぱり悲しい。
寂しい。
つらい、よ――――……
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