下駄箱で靴を履き替えて外へと出た所で、脚を止める。
そして、頭の上に広がる青空を見上げる。
浮かんでくるのは……たった1人。
聞こえてくるのは、あの低くて心地いい声。
『オレの事好きになるなよ』
あんなの、守れる訳ないじゃん。
あんな無茶苦茶な約束、無理に決まってるじゃん。
あんな約束事を決めながら、樹はあたしが好きになっちゃうような事ばっかりした。
話を聞いてくれたり、慰めてくれたり、海連れて行ってくれたり……
一緒に笑ってくれたり。
ベッドに入れてくれたり。
優しくしてくれたり……
そんな事されたら、好きになっちゃうに決まってるじゃん。
そうだよ。誰だって好きになっちゃうよ。
だから……だから、これは仕方ない事なんだもん。
あたしのせいじゃない。
樹のせいだ。
……うん。
だから……だから、樹。
これから会いに行く事、許してね?
気持ちを伝える事……許してね?
ねぇ……樹。
ねぇ……
見上げる空を、たくさんの雲が流れていく。
それをしばらく眺めて……少しでも高鳴る鼓動を抑えようと努力してみるも、それは簡単にできるような事じゃなくて。
それどころか、樹と過ごした時間が次々に浮かんできてしまって……それがいちいちあたしの胸を締め付ける。
荒れた海も、アンケートも、あの煩い車も……胸の奥から感情を溢れさせる。
ただ空を見つめているだけなのに涙が溢れそうになって……あたしは慌てて目を閉じた。
告白する前から泣くなんていくらなんでも樹にバカにされ……
……と、見えない視界に不意に聞こえてきた爆音。
その聞き覚えのある音に、あたしは信じられない思いにゆっくりと目を開けた
.