「例えば、何か心残りがあったりだとか、相手に対して申し訳ない気持ちがあったりだとか、伝え切れていない気持ちがあったりだとか……そうゆう後悔とか未練の気持ちが忘れなくさせてるんじゃない?

そうゆう想いが、きっとその恋を思い出にさせないんだよ。

いつでも掘り起こせる場所に置いちゃうんだよ。

思い出より、今にずっと近い場所に」

「後悔、か……」

「わかんないけどね。ただなんとなくそう思っただけ。

あたしは、忘れられない恋ってやっぱり実らなかった恋だから、そうかなって。

でも……」

「……なに?」


話を止めた芽衣に、その先を促すと……窓の外を見ていた芽衣が、あたしに笑いかけた。

すごく綺麗な笑顔で……


「忘れられない恋なんて、そこまで好きになれる人って人生で何人もいないよね。

そんなに好きなら、あたしはやっぱり思い出にはしたくない。

攻めて攻めて攻めて、絶対落とす。

もしダメでも……頑張りぬいとけば綺麗な思い出になりそうじゃない?」



『オレの事好きになるなよ』


あんな約束が……何になるんだろう。

あんなの守って一体何になるの?


大体守れてないし。

好きになっちゃったし。


好きになっちゃったなら……あの時、あたしがするべきだった事は……

約束を守ったフリなんかじゃなかったんだ。

綺麗なお別れより、気まずくない空気より、なによりも……あたしがするべきだったのは――――……


頑張る事だったんだ。

素直になる事だったんだ。


思い出にするためにじゃない。

忘れられない恋にするためじゃない。


樹を好きになったのは、紛れもない『今』なんだから……もっともっと出来る事はいっぱいあるじゃない。


ただ、こうして樹を思い描いていたって何も変わらない。

何も始まらない。

……思い出になんてできるハズがない。


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