「濡れちゃうよ?」
顔を上げて声の主を確認すると、それはなんとも軽そうな男の人だった。
金髪に近い茶髪に、ずり下げたくなるほど腰パンのジーンズ。
そして、あたしの上に広げてくれたのは青いビニール傘。
「はぁ……あの、なにか?」
「キミさ、さっきからずっとここにいるよね?暇なの?」
「……」
暇って言えば暇なんだけど。
だけど、この人とは遊びたくないなぁ……
はっきり言って顔がタイプじゃない。鼻ピとかダメなんだよね、あたし。
ついでに言えば、下ろされたジーンズから覗く蛍光ピンクのパンツも嫌。
……絶対、嫌。どんな趣味だよ。虫集まりそうだし。
「オレも暇なんだよね〜。一緒に時間潰さない?」
「……潰しません。ってゆうか暇じゃありません。ごめんなさい」
「嘘〜。言ったじゃん。ずっと見てたって」
「こうしてるのが好きなんです」
「え〜? じっと座って雨に濡れてるのが〜?」
よほど飢えているのか、なかなか引かない鼻ピ蛍光ピンク。
あたしは面倒くさくなって、じっと男を見上げる。
「正直言ってタイプじゃないんです。鼻ピも……パンツも。なのでごめんなさい」
あたしの言葉に男は表情を険しく変化させて……そして、あたしを睨むように見下ろした。
「オ、オレだっておまえみたいな女タイプじゃねぇし! なんだよ! 1人でいるから気ぃ使って声かけてやったのに! ボランティアだっつぅの!!」
「……それは親切にすみませんでした。ご協力ありがとうございました」
半分怒鳴ってる男に物怖じせずに返すと、男は拳をきつく握り締めて……そして背中を向けた。
一瞬殴られるかなって思ったあたしは小さく胸を撫で下ろす。
口から先に生まれたようなお兄ちゃんがいるせいで、あたしの口喧嘩人生は負けなしだ。
あー……もう! 考えないようにしてたのにまたやな事思い出しちゃったじゃないっ
あの蛍光ピンクめ!!
それにしても……
ここにいてもさっきから声をかけてくるのはナンパ野郎か、おやじだけ。
『3万でどう?』とかさ……なに、3万って。
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