「う~……寒い……」
暖房もない中、ソファに毛布で眠れる人がいるなら是非教えてほしい。
一体何を考えれば眠れるの?
こんな極寒の中……
季節は2月。
冬真っ只中。
「くしゅん!!……あ~、も~……」
さっきまで必死になって、南国の事とかお鍋の事とか、屋台のおでんとか、砂漠の事とか、もう熱いものはたくさん考えたのに、一向に温かくはならない。
大体、元が寒がりなあたしにとって無理な話だ。
どうやったって眠れっこない。
で、眠れないと嫌な事ばかり考えちゃうし。
小さい頃、眠れないあたしに本を読んで聞かせてくれたお兄ちゃんの声とか……
夜中トイレに起きて、でも恐くて1人じゃ行けなくて、お兄ちゃんを起こした時の事とか……
あまりに思い出が多すぎて……感情が目から溢れ出しそう。
「う~……」
分かってるよっ!
ちゃんとお祝いするから!
結婚式ではてんとう虫のサンバ歌うから!!
……だから、ちょっと待ってよぉ。ってゆうか寒いんだってば。
だからこんなに涙が……
涙がじわっと浮かんできた時、ドアが開く音がした。
それは、あたしのいるリビングと樹の寝室とを区切っていたドア。
トイレでも行くのかと思ってそのままでいたら、不意に上から樹に見下ろされた。
下を向いたせいで、黒い長めの髪が樹の目を覆う。
「なに?」
「おまえうるせぇよ。うーうー唸るな」
「あぁ、だって寒いんだもん」
そう不満をもらしたあたしに樹はため息をついて……寝室に戻り、毛布をもう一枚持ってきてあたしの上にばさっと掛けた。
「え、いいよ! これ樹が掛けてた奴でしょ? あたし我慢するし」
「……おまえ今まで散々言いたい放題言っておいてここに来て何遠慮とかしてんだよ」
「……あたしにだって常識くらいあるんです。樹が風邪でも引いたら悪いもん」
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