家に帰ったら、お兄ちゃんがいる。

そうしたら……『結婚』を認めなくちゃならなくなる。


……あたしだって分かってる。

ちゃんと認めてあげなくちゃならない事くらい、分かってる。


だけど……だけど、すぐには無理だから。

だから少しだけ。

少しだけ時間が欲しかったんだ。


こんな風に、気持ちの整理をつける時間が――――……

きっとまだ笑顔でおめでとうなんて言えないから。



「なぁ、瑞希。おまえはオレの事好きになるなよな」


突如言われたその言葉に、あたしは表情を歪めた。


「は? なにそれ。どんだけ自惚れてんの?」

「いや、だって女っていつ本気になるかわかんねぇから一応。

オレも、今日ので懲りたし。しばらくは身を改める事にするかなって」

「改めなくちゃならないほど遊んでた訳?」

「揚げ足取んなよ。……別に普通。ただ、オレも瑞希と一緒で誰かに本気になった事はねぇけど」

「なんで?」


あたしの言葉に、樹は諦めたように笑みを浮かべた。


「陸上が恋人だったから」




ねぇ、樹。

あたし達って似たもの同士だったのかな、なんて今は思う。


お兄ちゃんの結婚から逃げてたあたしと

陸上から逃げてた樹。


嫌な言い方すれば、傷の舐め合いとか言うのかもしれないけど……

この出会いはそんなんじゃなかった。


進むために、確かに必要な時間だったんだって、あたしは思ってるよ。


ねぇ、樹は?

樹も、そう思ってくれてる……?



ねぇ……




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