「……そういえば、なんで麻衣ちゃんと一緒に帰ったりしたの?」
涙が引いて落ち着いた頃、樹の手を軽く払いのけながら言った。
泣き止んだあたしに樹は少し黙って……だけど、あたしの方を見る事なく、あたしの目元から手をどけた。
一気に明るくなった視界が眩しい。
ただの蛍光灯のはずなのに、やけにキラキラしてて、目に痛い。
「……ちょっとな」
「タイプだったとか?」
「バカ言うな」
「その言い方は失礼だよ。……じゃあなんで? ってゆうか隠す必要なんかないじゃん。どうせ3日後にはいなくなるんだから」
あたしの言葉に、樹は少し黙って……ビールを一口飲んでから話出した。
話し出すまでのどこか遠くを見つめた瞳が、初めて会った時の切ない表情を思い出させる。
「逃げたかったんだよな」
ぽつりとこぼされた一言。
だけど、あまりに省略されすぎた言葉に、あたしはそれを模索してみるけど思い当たる事なんかなくて。
考え込んでるあたしに気付いてか、樹がぽつぽつと話を続けた。
「陸上やってたって言っただろ?
で、大学でもやろうって思ってたんだ。別に他に入りたいサークルもなかったし。
でも……そこに、高校ん時どうしても適わなかった奴がいたんだ」
「え……ずっと1位だった人?」
「そ。そいつがよりによって同じ大学で……陸上部に入ってたから、なんとなく入れなくて」
そこで話を止めてしまった樹。
その先を聞いていいものかどうか迷ったけど……迷ってる間に、樹は違う話題へとすり替えてしまった。
「しかし女って分かんねぇな。あんなんで付き合った事になんのかよ」
そう言って笑う樹に、あたしも頭の中の話題転換をして同じテンションで答える。
触れられたくない話題なら、無理に持ち出す事もない。
どうせ3日後にはバイバイなんだし……
「樹の女の選び方が悪かったんだよ。本気になりそうな子選んじゃったのが悪い」
「へぇ、そっか。……じゃあおまえは? すぐ本気になる性質?」
「さぁ……本気で好きになった事ないから分かんない」
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