「なのに、あたしはもう……必要なくなっちゃう……」
折りたたんだ膝に顔を埋めていると、樹が近付いてきた気配がした。
だけど涙で濡れた顔を見せるのは嫌で……そのままうずくまっていると、あたしの頭に樹のチョップが炸裂した。
「痛っ……何?!」
思わず頭を抱えて樹を見上げると、樹が顔をしかめながらあたしを見下ろしていた。
「ばぁか」
「なっ……」
「ばぁか! ばぁーか」
何度も繰り返す樹に、酔っ払ったのかと眉を潜めると……樹の顔がふっと優しさを浮かべた。
「瑞希が必要じゃなくなる訳ねぇだろ。家族なんだから結婚したって瑞希が可愛い妹だって事は変わらねぇよ。
バカな事言ってねぇで兄ちゃん送り出してやれ」
「……」
返事の出来ないあたしに樹は困り顔で笑って……そのままあたしの隣に座った。
そして……
「3日間で気持ち落ち着かせて、それから帰って兄ちゃんにおめでとって言ってやれよ」
そう言って、樹の手があたしの目を覆う。
何かと思って隣の樹を振り返ると、大きな手で目をぎゅっと押さえられた。
「泣いとけ。今だったら、酒のせいに出来る。
……そうゆう事にしといてやるから」
そんな事されたって泣ける訳なんかないのに……
可愛げのないあたしは、こんな事されて素直に泣ける訳なんかないのに……なのに――――……
「手……外したら許さないから。言っておくけど、あたしが泣いてるのは……本当に、お酒のせいなんだから……勘違いしないでよねっ」
そう言ったあたしに、樹はふっと笑って……そのまま何も言わなかった。
ずっと溜まっていた涙は自分でも驚くほどに溢れ出てきて……
樹の手がそれを吸い取るように見えないものにしてくれた。
あたしが隠してきた、誰にも言えなかった感情が、初めて外へと溢れ出す。
たくさんの強がりや悲しさ、寂しさが涙と一緒に零れ落ちた。
柔らかい、静かな空気が部屋を包む。
こんな風に涙が溢れて止まらないのは……きっとこの部屋のせいだ。
樹の素直じゃない優しさが詰まってる、この部屋のせい。
……あと、少しのアルコールのせい。
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