ガタリッ。


流美が言ったその瞬間、お母さんが立ち上がり、食器を片付けに行った。


後ろを向いているから表情は読み取れないが、お母さんが何も言いたくないと思っているのは伝わってきた。


美花の事を言うのは、嫌なはずだ。


それも、双子の姉である私がいる前で。



流美は笑顔で私が何か言うのを待っている。


喉の奥に蓋が乗っかったような重みを感じる。


私は何も言わずに、いつもの笑みを顔に貼り付け、黙々とパンを口に運んだ。


何の味も感じなかった。



課題。


それは、いつまでも悲しみのどん底に突き落とされている私を心配して、お父さんが考えてくれたもの。


“幸せとは何?”


この質問の答えを、探さないといけない。


答えはひとつとは限らない。


自分が思った事ならば何でもいいのだ。



けれど私は分からない。


美花が居るあの世界が、あの日々が、幸せだったから。


美花が居ない今、幸せなんて分からない。


いや、むしろ幸せなんてないのかもしれない。


明るい感情が麻痺した私にとって、この世界は意味の無いものに思える。



お母さんには、安心してもらう為にずっと嘘をつき続けている。


「幸せってどんな事か、分かったよ」


と。