知ってるよ、だって私そこに居たから、という言葉を必死で飲み込み、


「家はどこ?」


と尋ねた。


「本屋の近く…」


斎藤君は本当に辛そうに言葉を絞り出している。


「遠い…」


遠いね、と言おうとした時、急に斎藤君がふらりとよろめいた。


倒れかけた斎藤君を、私は慌てて支える。


「大丈夫!?」


何とか斎藤君が倒れないように支えるので、精一杯だった。


「…ごめん…バランスが、とれなくなって…」


斎藤君はふらつきながら謝る。


「私の家、すぐそこだから寄って行って」


「大丈夫、だよ…慣れてるし…」


斎藤君は駄目だよ、という素振りを見せ、私の手を振り払おうとした。


けれど、上手く体が動かないようで。


結局、斎藤君は私に支えられながら、私の家へと向かった。


恋心とかそういう類のものではない。


単なる親切心から行った行為だ。



ザッザッ…と、雪を踏む足音が響く。


私はある一軒の青い屋根の家の前で立ち止まり、ドアを開けて斎藤君を招き入れた。


「ここだよ、私の家」


「お邪魔します…」


斎藤君はふらつく足でリビングのソファに座った。