「そうなんですか…どんな、過去ですか?」


数秒間が空いた。


「私も体験しないほどの辛い過去よ。…私でも、彼女の苦しみを全て癒すことのできないくらい」


「そう、なんですね…その子は、誰なんですか?」


「自分で聞いてみればいいじゃない。後で会うかもよ?あと、その時…」


先生が斎藤君の方に顔を近づけ、小声で話し始めた。


私には何を言っているのか聞き取れなかったけれど、カーテン越しに斎藤君がこくりと頷くのが見えた。


「あと、その様子だと斎藤君、授業に参加できそうね?あと少しでチャイムがなるから、次の授業から参加してね」


きっと、中村先生はいたずらっぽく笑っていることだろう。


「っ…はい」


「そんな嫌そうな顔しないの!勉強してると将来役に立つんだからね?」


先生が正論を唱える。


「でも、頭痛いんです…」


負けじと斎藤君が訴える。


「どれどれ?…平熱よ。…また具合悪くなったら保健室へ来なさい。いつでも居るから。それに、話聞くから」


2人の楽しそうな声が響く。



私はそれを、ただカーテン越しに聞くことしか出来なかった。


ああいう楽しそうな場所には、私は入ってはいけない。


私が入ったとしても、苦しくて、辛くて、会話を続けられないだろう。