美花が亡くなって久しぶりに、ゆっくりと雪を見ることができた。


それも今だけだと分かっている。



また数時間経つと、雪を見れなくなる。


だから今のうちに、雪景色を目に焼き付けたかった。


雪は、凄く綺麗だ。


雪が降ると迷惑な部分もあるけれど、私は、雪の良い所悪い所全てが好きだ。


(もう、スキーにも行けないな…)


雪を見て倒れてしまうのなら、雪だらけの場所で行うスキーなど、出来るはずがない。


私はため息を吐いた。



「中村先生、さっき話していた人は誰ですか?」


不意に斎藤君の声が聞こえ、私はカーテンの向こうのシルエットを見ながら緊張で拳を握りしめた。


きっと私の顔はこわばり、怯えた表情を浮かべているだろう。


(先生、私の名前を言わないで)


「斎藤君と同じ、2年生の女子よ。気分が悪くなっちゃったの」


先生が、私の名前を言わなかった事に安堵する。


「泣いて、ましたよね?」


その質問に、私の心臓は飛び上がる。


核心を突かれた。


中村先生のシルエットがゆっくりと頷く。


「そうよ。…彼女は、辛い過去があるの。その過去を思い出して泣いちゃったのよ」


中村先生が、言葉を選んでいるのが伝わって来る。