陸人の目はしきりに左右へ動いている。


「俺も嫌だから…でも、見たら何か変わるかもしれないだろ?」


陸人は、変な理由付けをして窓の外を見つめた。


(何も変わらないよ…私が苦しむ姿を見て嘲笑いたいだけじゃないの?)



けれど、違った。


私が観念して雪を見つめて、静かに泣いても。


陸人は何も言わずに私の後ろに立って背中をさすってくれていた。


「大丈夫、大丈夫…」


そう言いながら。


それはまさしく、生前の美花がやっていた行動とそっくりで。



美花の笑顔が雪と重なる。


あの日の出来事が雪と重なる。


美花の最期の言葉が雪と重なる。


美花との全ての思い出が、雪と重なる。


辛くて、苦しくて、悲しくて…。



ひとしきり泣いた後、私は陸人の方へ振り向いた。


少し、落ち着いたから。



そこで、意外な光景を目にした。


陸人の頬に一筋、涙が伝っていた。


陸人も知らず知らずのうちに自分の記憶と重ね合わせていたのだろう。


「お前、やばいぞその顔」


「陸人だって…いつも泣かないくせに」


「うるさっ…」


私達はお互いの顔を見て笑い合った。


笑い方を忘れたけれど、気付かれないほど上手くなった。