誰にも、私でも開けられないような頑丈な心の扉。


それを開ける鍵なんて、見つからない。



「美空、ご飯よ!降りておいで!」


「今行く!」


お母さんの声が聞こえ、我に返った私は重たい足を引きずりながら階段を下りていった。



今日から3学期がスタートする。


憂鬱な気分だ。


冬休みは、誰とも連絡を取らなかった。


人と関わるのを極力避けたいから。


いつか、自分の隠している事がばれたらと思うと、怖いから。



1階に下りると、既にお母さんと、4歳の流美(るみ)が座っていた。


お父さんは単身赴任中で、外国へ行っている。


仕事先はアメリカのはずだ。


「そういえば美空、この間ご近所に引っ越してきた人と会ったのよ。すごく気さくな人でね、今度美空も会うといいわよ」


「うん、分かった」


私はお母さんに笑顔を向けながら、我が家では定番であるパンとコーンスープの朝ご飯を食べる。



私の笑顔が作り物であることなど、親ですら分かっていない。


我ながら凄いと褒めてしまいそうになる。


あまり習得したくない技だけれど。


目の前の椅子には流美が座り、ひっきりなしにパンを食べさせてもらおうとお母さんにせがんでいる。