そうこう考えているうちに、どんどん私の体は透き通り、今では景色と見分けがつかなくなってきていた。


(ああ、もうすぐ私は…あの世に戻るんだ)



あれ程までに戻るのを嫌がっていた私は、もういない。


もう、自分の気持ちに蓋をした。


全ては、美空の為であり私の為。


私は立ち上がり、最後の力を振り絞って美空の顔に触れようとする。


けれど、それすら叶わなくて。


「っ…」


固く結んだ口の隙間から、声が漏れる。


やはり、少し悲しくて、悔しかった。



赤くなっているであろう目を擦って時計を見ると、3:15まであと10秒しか残っていなかった。


(もう、消えるんだ)


最後の最後くらいは、笑顔で消えたい。


だから、無理矢理にでも笑顔を作ってみるけれど。


涙が一筋、私の頬を流れる。


けれど、私はその涙を拭うこともせずに美空に語りかける。


もう、本当に時間が無い。


私が肉体を持って美空の元に会いに行けるのは、きっとこれが最初で最後。



「美空……ううん、お姉ちゃん、私の分まで幸せになって」


聞こえなくてもいい。


その一言に、全ての思いを託して。


心の底からの、私の願い。



また会える日を信じて。


生まれ変わる時には、また美空と家族でいられるように。