私はため息をつき、振り返る。


幸せそうな顔で眠りにつく美空の顔が見えた。


(美空、幸せになってね)


私は美空のベッドの近くまで行きながら、心の中でそう唱える。


それもこれも、全てあの翔平君のおかげ。


(転入生、恐るべし)


そう思いながら、私はニゲラの花束を掴んだ。



その瞬間。


私は自分の目を疑った。


(掴めない…!)


もう一度手を伸ばし、ニゲラの花束を掴もうとするけれど、私の手はするりとニゲラの花束を通り抜ける。


(何、これ…)


あまりにも急過ぎる。


時計を見ると、3:13を指していた。


あと2分。


あと、この世界にとどまれるのはたったの2分しかない!


もう、戻る時が近付いている。


私の肉体が、薄れている。


私はパニックに陥った。


「待って…」


毛布を触ろうとしても、すり抜ける。


ベッドを触ろうとしても、すり抜ける。


「嫌、嫌…早いよ、早すぎるよ!」


自分の両手を見ると、手の色が薄くなり、向こう側の景色が見えていた。


「嫌だ、待って!」


私は、半透明になった両手を必死に擦り合わせる。


そうすれば、元に戻るとでもいうように。


(お願い、元に戻って)


けれど、私の必死な願いは届かなくて。