斎藤君がそう思い立ってすぐ、陸人が自分がギフテッドであることを告白した。


そして斎藤君は週末、陸人と共に花屋へ行き、“夢の中で会いましょう”という意味の花言葉を持つニゲラを購入したらしい。



「だから、ニゲラを枕元に置いて寝てみたんだ。父親に会おうと思ったんだけど…無理だった」


「夢に、出てこなかったの?」


私の質問に、斎藤君はぶんぶんと首を横に振る。


「いや、出てきたのかもしれないんだけど…目を瞑ると、あの日言われた言葉がずっと頭の中で繰り返されて、寝れなくなっちゃってさ」


斎藤君は苦しそうに笑う。


「だから…これ、俺が持ってても意味無いから、川本、貰ってくれない?」


「でも…家に飾ったりはしないの?」


「ううん、する気は無いから」


斎藤君は即答する。


「そっか…じゃあ、貰うね」


夢の中で美花と会うなんて馬鹿げたことは考えず、ただ単にニゲラを枕元に置いて寝てみるのもいいかもしれない。


まだ元気に咲き誇っているそれは、枯れる予兆も無さそうで。


私は、ニゲラの花束を受け取った。


「うん、ありがとう!」


斎藤君は今までとは違い、にこにこと笑った。


「じゃあ俺帰るわ。またな、川本。夜遅くにごめんね」



そう言って1人で帰ろうとする斎藤君の背中に向かって、私は無意識に呼び止めていた。