首を振ると、斎藤君はゆっくりと口を開いた。


「花言葉は、『夢の中で会いましょう』なんだ」


「夢の中で、会う…」


私の体が硬直する。



斎藤君は、誰に会えと言っているのか。


私としては、答えは1つしかない。


美花に、会いたい。


けれど、そんな事は叶うわけがない。


斎藤君は私に夢物語を語って、面白がりたいのだろうか。


それなら、いらない。


悲し過ぎるから。


「…」


私が断ろうとした時。


「本当はさ、俺、夢の中でいいから父親に会いたかったんだ」


斎藤君がぽつりぽつりと語り始めた。


「夢でいいから父親に会って、謝ろうと思って。今まで、迷惑掛けてきたから…」


この頃家族の夢、見てなくてさ、と斎藤君ははにかむ。


「実際会うとなると、ちょっと厳しいから…そんな時、陸人が花言葉にも詳しいって知って」


あれ程酷い言葉を吐いて家を出て行った父親に対し、謝ろうと思った斎藤君。


けれど実際に会うと、あの日の記憶が蘇り、話せなくなるのではと怯えた。


きっとメールも、電話も出来ないのだろう。


そんな時に、夢の中で会おうと思った。


夢の中なら、きっと怖くない。


そう話す斎藤君の顔は、心なしか悲しそうで。