その途端、斎藤君の体がぐにゃりと傾いた。


「えっ!?」


突然の事に頭がついていけなくなりながら、私は斎藤君を支える。


「ごめん…走って来たから…」


その一言で、斎藤君の言いたい事は全て伝わった。


走って来たから、斎藤君の弱い肺は今、悲鳴を上げていることだろう。


「大丈夫?家入って、休む?」


私の問い掛けに、斎藤君はゆるゆると首を振った。


「だって、家に親とか居るんでしょ…迷惑かけちゃうから」


斎藤君は、断固として家に入るのを拒否した。


「で、どうしたの?」


私は斎藤君を支える手を離しながら促す。


「ああ、そうだ…これ、渡そうと思って」



そこで、私は斎藤君の手に花束が握られていることに気づいた。


とはいっても、たくさんの種類の花が入っている訳ではなく、一種類の花を3本ほどまとめたようなものだった。


「これは…?」


私は受け取りながら問う。


あまり、見た事の無い花だった。


「…この花、ニゲラっていう名前の花なんだ」


少し経って呼吸が落ち着いたのか、斎藤君はスムーズに返答する。


「ニゲラ…」


オウム返ししながら、私は必死に記憶を巡らせる。


そんな花の名前、聞いた事が無いような気がする。


「ニゲラの花の花言葉って知ってる?」


唐突な質問に、私は戸惑う。