本音を言えるような環境を作り、そして自分は、私の残酷で悲しい過去に寄り添ってくれた。


斎藤君だって、私達には言えないような壮絶な過去があったというのに。


自分の事は二の次で、相手の事を思いやってくれる。


そんな斎藤君に、私は救われたのだ。



ピンポーン…


突然、チャイムが鳴り響いた。


「あら…」


「私が行くよ」


ソファーから立ち上がろうとするお母さんを押し止め、私は玄関へと向かった。


お母さんのせっかくのゆっくりした時間を、簡単に奪いたくなかった。



「はいー」


ドアを開けると、膝に手をついて荒く呼吸している人がいる。


どうやら走って来たようだ。


その人には、見覚えがあって。


「…斎藤、君?」


恐る恐る尋ねると、その人は頷いた。


「急に、ごめん…っ…」


私はそばに掛かっているジャケットをはおり、外へ出た。


斎藤君が呼吸する度に白い息が出るが、そのテンポは不規則だった。


「夜遅くに、どうしたの?」


今の時間帯なら、ほとんどの家庭が晩御飯を食べ、お風呂に入っているような時刻だ。


(何で来たの?)


私の頭の中は、はてなマークが沢山飛び交う。


「っ…渡したい物が、あって……」


斎藤君は膝から手を離し、私を見る。