隣では、雪を蹴散らしながら歩く斎藤君。


特にこちらを見ないが、返答を待っている事くらい一目瞭然だった。


(あああ、言えないっ!)


“また今度言うね”


苦し紛れにそんなことを言おうかと、私が最終決定をした時、私の家のトレードマークでもある青い屋根が見えてきた。


未だに溶けない雪で埋もれていようが、分かりやすいその色は、薄暗い今も私の目に映る。


「あっ、ここ私の家だからっ!またね!」


「えっ、ああ、うん。…じゃあな」


私はそれ以上斎藤君を見ずに、震える手で鍵を探しあて、暖かい我が家へ入って行った。


「ただいまー」


「お姉ちゃんー!おかえりなさいー」


出迎えてくれる流美の頭を私は撫で回す。


「おかえり、美空。外は雪降ってなかった?」


お母さんがエプロンで濡れた手を拭きながら現れる。


「ううん、今は止んでる」


いつもは雪の話題が出ただけで、顔をしかめ、自分の部屋へと駆け込む私が、今は普通に答えている。


自分の事なのに、まるで他の人の体に乗り移ってしまったような感覚を抱く。


「美空…」


お母さんの驚くような声が、私の脳内で反響する。


私も、自分の変化に頭が追いついていなかった。


「…今日の晩御飯、何?」


とにかく、全力で平然を装った。