「じゃあね、気をつけて!」


(陸人、あなたがいたから斎藤君は本音を言えたんだよ)


私は、心の中でお礼を呟いた。


声に出すと、恥ずかしいから。


それに、声に出さなくてもきっと2人に届いているから。



「あ…川本、信号渡る?」


斎藤君の声で我に返る。


「ああ…うん、渡るよ」


「俺もだからさ、途中まで一緒に帰ろうぜ」


私は頷き、少し疑問に思う。


(この前私の家に来たのだから、場所を知っているはずなのに、何故いちいち方向を確認したのだろう…?)


斎藤君は、脇に退けられた雪を踏み潰しながら歩いて行く。


それと反対に、私は若干整備された真ん中を歩く。


未だに、雪を直視するのが怖かった。


どちらも何も話さず、ただ家路を歩いている。


この沈黙は、不思議と嫌ではなかった。



「…今日、ごめんね」


不意に斎藤君が謝る。


「え、何が?」


「ほら…」


斎藤君は、言いにくそうに傘を雪に突き刺していたが、


「今日の放課後…俺、川本に酷い事聞いちゃってさ…」


「あっ…」


咄嗟に言葉が出なかった。



確かに、最初は話すのも嫌だった。


話して、引かれるかもしれない。


話して、大袈裟に哀れに思われたくない。


話して、私はどうなってしまうのだろう。