程なくして体温計を抜き取ったが、思った通り熱は無かった。


「授業、戻れそう?」


中村先生は体温計を片付けている。


私が無言で首を振ると、


「じゃあ、1時間だけ休もうか」


と優しく言ってくれた。


その言葉に甘えて、空いているベッドに横になる。



私が枕に頭を乗せたのを見計らって、先生が口を開いた。


「もう1年が経つんだから、少し思い出してみたら?…何か変わることもあるかもしれないし」


主語こそ無いものの、それが事故の事を指していると私にはすぐに分かった。


あの日の事は出来れば思い出したくない。封印してきた記憶だ。


全てをリアルに思い出したら、私は壊れてしまうかもしれない。


二度と、前を向けなくなるかもしれない。


けれど、いつまても逃げる訳にはいかないから。


私は頷いた。


泣きそうになる自分を必死で隠しながら。


先生は微笑むと、そっとカーテンを閉めた。



…とはいっても、病人でないのだから寝れるはずが無く。


何度か寝返りを打ち、枕を顔に押し付けたりして眠気を誘おうとするけれど。


それらは、全て失敗に終わった。


(でも、寝ないと…)


私は、強制的に目を閉じた。