私は、こんなに感情を表に出した事があっただろうか。


きっと、あの日以来初めてだ。


全ては、斎藤君のおかげ。


私がお礼を言おうとした時、


「なあ、時間やばくね?」


という陸人の焦ったような声が聞こえた。


時計を見ると、時刻は17:50。


「最終下校時刻、過ぎた…」


驚異的な早業で涙を引っ込ませた愛来が、呆然と呟く。


「皆走って帰ってるよ」


何食わぬ顔で、斎藤君が窓にへばりつきながら報告する。


アメリカ育ちだから、こういう事に慣れていないのかもしれない。


それに、学校にそれほど通っていなかったとさっき言っていた。


けれど、これはかなりの問題だ。


「やべえやべえ!」


陸人が焦りながら暖房のスイッチを消し、コートを羽織る。



何故こんなにも焦る必要があるのか。


最終下校時刻を過ぎているというだけで問題だが、まだ校舎に残っていた生徒は、先生に見つかると反省文を書かされるのだ。


部活ならまだしも、教室で話していた事がばれると、流石に私達の立場が危うい。



「やっば!早く出て!教室出て!」


愛来が金切り声を上げ、


「何?」


と問う斎藤君の背中を押す。