この前もおきたこの症状は、陸人にとっては日常茶飯事。


2学期中は、かなりの頻度でこの症状が出ていた。


陸人の驚異的な記憶力のことを知っている人は、学校中の全生徒と全教師を合わせたとしても、数える程しかいない。


しかも、その内の大半は冗談だと思っている為、陸人はただ苦しむよりほかは無いのだ。


嫌な記憶を何度も思い出し、その記憶の鮮明さに怯えたとしても、陸人は保健室にすら行けない。


中村先生に、何て説明すればいいのか分からなくなるからだ。


冗談だと捉えられるだろうし、傍からしたら自慢にしか聞こえないからだ。


「え、何が?1年前って、川本の事故の事だよな?…何で、高橋が思い出してるんだよ?」


斎藤君が状況を上手く飲み込めず、私に助けを求める。


「えっ…と…?」


話していいのか分からなくなり、私は曖昧に首を傾げる。


「俺も居たんだよ、その現場に」


急に陸人が顔を上げた。


もう症状が治まったのかと思ったが、そうでは無さそうだった。


これでもかという程深呼吸を繰り返している。


何度も事故現場を思い出していては、息がしにくくなるのも当然だろう。



愛来は話に入り込むべきではないと察したのか、クラスメイトの誰かの椅子に座った。