「やっべえ…ちょっとキツい…」


何が?と聞き返す隙も与えずに、陸人はずるずるとその場にしゃがみ込んでしまった。


「何、具合悪いの?」


愛来が心配そうに尋ねるが、陸人は黙って首を振るばかりだった。


「おい、どうしたんだよ」


斎藤君が陸人の元へ駆け寄り、その顔を覗き込むようにして尋ねたが、陸人はただ


「少ししたら治まるから…」


と弱々しく笑うだけだった。



愛来と斎藤君が不思議そうに顔を見合わせる中、私だけが気付いていた。


陸人が今、自分の記憶に苦しめられている事に。


決して忘れることの出来ない記憶が、陸人の頭の中で次々に再生されているのだろう。


陸人は決して、それを望んではいないはずなのに。


彼は、1年前の事故現場の事を思い出している。


そうでないと、あんなに苦しそうな顔はしないはずだから。


「陸人…1年前の事…だよね?」


私は陸人の傍に近寄りながらささやく。


驚いたように顔を上げた陸人は、何度か瞬きをした後にゆっくりと頷いた。


「…なんていうかさ、思い出したくないのに思い出しちゃうんだよ…何回も、何回も…」


大きく溜め息をついた陸人は、次の瞬間


「何なんだよ、もう…」


と顔を両手に埋めた。