美花の事は大好きだし、思い出だって大切にしたい。


けれど、それと矛盾して辛く感じてしまう自分が、嫌だった。


雪から顔を背け、逃げ出したくなる衝動を必死に押さえ、


(ありがとう)


と心の中で呟いた。


(これまで、美花が何で助けてくれたのか分からなかった)


(ずっと、苦しかった)


私のせいで、美花の命を落としてしまった事実に変わりはない。


だけど。


(あの時、助けてくれてありがとう)


1年越しに言うことの出来た、お礼。


まだ分からないことは沢山ある。


幸せが何なのか分からないし、“2人で1つ”という意味も理解出来ていない。


それでも、私は願う。


遠く離れている美花へ、この思い、届いて。



「ちょっと…」


陸人の苦しそうな声で、私ははっと我に返った。


今まで誰にも言えなかったことを話し、そして美花にもお礼を言えたからか、私は胸のつかえが取れたような気分になっていた。


私が振り向くと、陸人はいつの間にか壁際に寄りかかり、固く目をつぶっていた。


「何やってんだよ?」


斎藤君が不思議そうに質問するが、陸人はそれに答えずに深呼吸を繰り返すばかり。


その手からは、スクールバッグがぽとりと落ちた。


「え…陸人?」


何度か愛来が名前を呼び、ようやく陸人が反応した。