泣き過ぎて、思考が停止しかけていたからかもしれない。


そんな私を見て、立ってその様子を眺めていた陸人が口を挟んだ。


「川本は、自分の命を犠牲にしてまで川本を守ったんだ。だから、川本にありがとうって言ったか?」


川本が連呼され、いまいち誰のことを言っているのか分からなくなりながらも私は頷く。


「おい、本当かよ?」


陸人が呆れ顔で私を見る。


「お前は、自分の妹に、守ってくれて、ありがとうって、お礼を、言ったのか?」


ゆっくりとした陸人の言葉が、頭の中で繰り返される。


途端に、私の中に電流が駆け巡ったかのような衝撃が貫いた。


「言ってない…!」



そう。


ずっと、なぜ生かされたのか分からなかったから。


私1人生き残った世界では、何も感じなくなっていたから。


幸せなんて、分からなかったから。


いつの間にか、笑う事を忘れ、頼る事を忘れた。


明るい感情は凍結し、ずっと自分を責め続けていた。


“私が傘を取りに走らなければ”

“車に気づいていれば”

“美花は、私を守るために車に轢かれなかった”

美花を助ける方法なんて、何通りも思いついた。


けれど、もう遅かった。