「お兄ちゃん、美空のことすごく心配してて…でも、入院してるから時々しか会えないからって…凄く、悔しがってたの…」



ガタンッ…


私の後ろで、何かが倒れる音が聞こえた。


振り向くと、斎藤君が横倒しになった椅子を持ち上げているところだった。


「あ、ごめん…」


そう謝った斎藤君の顔は蒼白で。


何かおかしいな、と思いながら、私は愛来の方へ向きなおった。


後に立つ陸人が、心無しか首を傾げているように見えた。


その目線は、椅子を倒した斎藤君へ注がれている。


そんなことはつゆ知らず、愛来は私に語りかける。


「美空…気付いてよ。私は、美空の苦しみを和らげてあげたかったの…」


「でも、それじゃあ…」


“愛来も苦しむよ”


そう言いかけた私の言葉を、愛来は遮る。


「だって、美空は美花にずっと相談してたでしょ?…美花が居ない今は、私がその代わりになろうって思って……」


私は溢れ出す涙を拭う。


まさか、愛来がそんなふうに考えていたなんて。


苦しむのは私だけで良いと思っていたけれど、その考えは間違っていた。


愛来も、私の見えないところで悩み、苦しんでいたのだ。


「……美花が、何で死んでまで美空の事を助けようとしたのか…分かる?」


愛来は、ジャージの袖で頬を流れる涙を拭いながら聞く。