『美空、このごろ大丈夫?』

『うん、大丈夫だよ。ありがとう』

『苦しかったら、いつでも言ってね。相談乗るからさ』

『大丈夫だから、気にしないで』


こんなやりとりを、何回しただろう。


“大丈夫”の意味が、分からなくなった。


「愛来は本心で言っているんだと思うけれど、もしかしたらって思うと怖くなって…」


斎藤君は片足に重心をかけながら頷く。


「言えなくなっちゃった…。だから…斎藤君が最初に私の過去について問い詰めた時も、怖くて…」


どうせ理解してくれないのだから。


私を、嘲笑うと思って。


「ごめん…まさか、そんなに苦しんでるとは思ってなくて…」


斎藤君がバツの悪そうな顔で謝る。


(斎藤君は何も悪くない)


私は首を振った。



その時。


閉め切られていた後ろのドアが勢いよく開き、


「美空っ!私の事、そんな風に思ってたの!?」


と、聞き慣れた大きな声が響き渡った。


ただ、その声はいつもよりも震えていて。


私はゆっくりと振り返る。


そこには、体育着の上からジャージを着た愛来が立っていた。


「愛来…?何して…」


愛来は私の質問には答えず、勢いよく私に抱きついてきた。


そのままの勢いに押され、私達は床に座り込む。