「何で、笑わないの?」


その真剣過ぎる質問は、あまりにも唐突過ぎた。


「え、ごめん…私、笑ってるけど…?」


(斎藤君、やめてよ)


私はいつもの様に笑顔を貼り付けながら、その質問の内容が間違っている事を伝える。


この笑顔が偽物だなんて、誰にも分からないはずだから。


そう信じ込んでいた。


「ううん、笑ってないよ」


斎藤君は真剣な表情を崩さない。


「…もう、帰っていい?」


今までで初めてだった。


この笑顔が、作っていると気付いた人は。


家族にもばれないように、親友にもばれないように作ってきた笑顔。


もう、本当の笑い方なんて忘れてしまった。


元々、美花が居なくなってから笑えていなかったのだ、しょうがない。


斎藤君の優しさが、辛すぎて。


私の過去を分かち合いたいと思っているんだろうけれど、私は無理で。


だから、もう帰りたかった。


関わりたくないから。


そう決めたから。


私の過去は、言えない。



私はリュックを肩にかけ、廊下へ出ようとした。


「待てよ」


再び聞こえる若干低めの声。


その声に釣られるように、私は立ち止まってしまう。