どうして忘れていたんだろう。


徐々に、記憶が薄れていく。


美花と過ごした時間が、思い出が。


いつかは少ししか思い出せなくなるかもしれない。


(そんなの、嫌…)


新たな涙が開いたままのページへ落ちる。


私は、何度も何度も美花の字をなぞった。


そうすれば、美花が側に居てくれるような気がしたから。


もう、時間割の事は頭から消え失せていた。



「ちょっと美空?もう22:15だから、早く寝なさい。流美はもう寝たわよ」


明かりがつけっぱなしの私の部屋に、ノックも無しにお母さんが入ってきた。


ドアが開いた瞬間、気配でお母さんが固まったのが分かる。


「美空、どうしたの?」


お母さんは私に駆け寄り、私の肩に手を回して、私が抱き締めているものを覗き込む。


「あら、懐かしい…交換日記ね」


お母さんは私の手から交換日記を取り、目を細めながらパラパラと中身をめくった。


「あなた達、楽しそうにやってたものね。…もう書かないの?」


私は泣きながらお母さんに抱きついた。


自分が何をしたいのか、分からなかった。


「…ちょっとー、お母さんまで泣いちゃうじゃない」


お母さんの声は、涙声で。


「…泣いてるじゃん、もう遅いよっ…」


私の声も、涙声だった。