【完】今日から、お前は俺のモノ

私は唖然(あぜん)とした。



……私は生きがいともいえるバスケを失った



「……ホントに……?」

「…………あぁ」

お父さんは下を向いて私に言う。





颯太は「ごめん」と繰り返し言っているのが
ベットに横たわる私でもわかる。



それで私は今の状況をやっと理解する。




……私、ホントに身体が動かなくなったんだ




……もうバスケが出来ないんだ……




……っ……私これから……何を?……




……私の夢はどこに……?……





……これからどうすればいいの……?……





………………もう……やだぁ……



涙が溢れてくる……
身体がだんだん熱くなって

「私……なんで私なの……?」
「……やだよ……っ……!!」
「まだ…バスケしたかったの……に……っ」
「なんで……!!なんで!!」
「……わたしの夢は?……」
「もう……叶わないよ……っ……」



……っ……助けて、颯太……

もう叶わないって分かっているのに……

颯太にぶつけても
何も変わらないって分かってるのに……


でも……っ……





「めい……っ!!」
颯太は取り乱した私の手を握りしめる。


それから




「俺が……めいの夢全部叶えるから…!!」

颯太 は目を赤くして……それでも
その目は強く私を見つめる。




「……颯太が……私の夢を……?」

「全部っ……全部叶えるから!!」



……あの日はずっと泣いて泣いて颯太に



……私のこれからの夢を言っていたと思う。



私があの日に懸けていた想い。
これからのバスケの目標だった
強豪の東海高校でキャプテンになること。
色んな想いをそのまま颯太にぶつけた……


その想いを颯太はずっと手を握りながら
聞いてくれていたーーーー。





それから、私はずっと入りたかった東海高校へと美咲や先生の力を借りて
病室で勉強を進めて……



颯太も学力的に厳しいと言われていたのにも
関わらず東海高校に……





……合格した。



あれから入学式に間に合うように必死に
キツくて辛いリハビリをして……



入学式には
歩けるようになって、


あんなに痛々しかった傷も、もう傷跡がうっすらと見えるくらいに治った。




でも、私は




ーーーーあの日を忘れない。
……めい、いるかな……?



市民体育館について今は
アップを始める15分前……


席を見上げると…



「……キャーーーー!!!!」
「颯太君ーー!!!!」
「今、こっち見た!!!」


誘ってないけど来てる同級生?
よくわかんない女の子達。


「……俺はめいを探してるんだけど……」

ボソッと声になった言葉に
「あそこ。」と後から指さす玲於。


そこにはめいと美咲の姿があった。



「よし、俺が先に行こっと」玲於がニヤリと笑って走り出す。
「っ……おいっ玲於!!」と俺は玲於を追いかけて走った。



走った先にはさっきの女子の姿。

その手前にはめいと美咲。

……どーすっかなぁ……


やっぱ


「手引っ張っるしかないだろ」
「……っだよな」
玲於はいつも俺と考えてることが同じだ。



……それはそれで気持ち悪ぃけど……


「……せーの」


グイッ……


玲於の掛け声で二人の手を引っ張る



めいも美咲も驚いた顔をして、
俺達とわかってからは安心した顔をしてる。



……っ!!めい……


……可愛いすぎんだろ!!!
他のやつにこんなの
見られたらぜってー……



ってめい?

めいは俺と玲於のユニフォームをみて
複雑な顔をして
「………4番と5番か」なんてボサいている




多分……まだ
あの時のことが残って……






あの時、俺はめいを守れなかった。
だから俺はこれから何があっても
めいを守るつもりだ。

それに、めいと交わした約束も……。


「めいの夢は全部叶えるから」


めいは少し潤んだ目を俺に向けて頷く。


……俺がめいと交わした約束っつーのは

あの日……

俺は玲於とめいの応援に行く予定だったんだ





なのに……
めいは学校に行くまでに
飲酒運転の車にはねられて



バスケが出来なくなるくらい
大怪我を負った。



俺は最初全然信じられなくて、
かなり取り乱した。

でも、めいのお父さんの涙を見て
改めて守ってやれなかった悔しさが
こみ上げてきた。




めいはあんなに明日の試合を楽しみにして
あんなに練習を積み重ねてきたのに……


ずっと小さい頃から頑張ってきたのに……


そんなのっ……
耐えらんねぇよ………!!!



急いで病院に向かうと
めいは全身包帯で巻かれて、
痛々しい姿になっていた。


「……っ!!めい!!めい!!!」
俺はめいの身体を揺さぶって叫んだ。


でも、めいの意識は戻ることなく……


めいの手を握ったまま……思いっきり泣いた



あの日ほど泣いた事は今までなかった。
それに、これからもないと思う。

自分が何も出来なかった無力さと、
守れなかった悔しさから俺は






絶対何があってもめいを守ると誓った。



それからめいが事故にあって1週間。
毎日めいの手を握ってただただめいの
目覚めを待つだけ……



「……っ……颯太……」


……っ!!めい!!


目が覚めためいは、
すぐに自分の怪我をお父さんから聞いて




ゆっくりと涙を流しながら



俺に、今の想いを1つ、1つ、全部
話してくれた。



その中にはめいの夢への想いが
沢山詰まってて、
今の状態じゃ叶えられない夢もあった。

だから……
絶対俺が全部叶えるって







ーーーーーめいと約束したんだ。
あの日の事を思い出して、
俺はいつもバスケを続けてきた。



だから、今日は全部の試合に勝つ。



そう心に決めて来たんだ。


「おい、颯太時間やべぇから」

……あっ……


時計を見ると、
もうとっくにアップ前の15分をすぎていた。


ってこれ渡さねぇと!!
俺と玲於が手に持ってたのは



特別席の招待券。



……だってめいは人混みとか大人数が
苦手だから。


わがままいってコーチに貰ってきたんだ。





そして、招待券を玲於と渡して俺達は
試合に向かった。
颯太と玲於が私達に渡したのは


特別席の招待券。


……なんで特別席なんか……

ま、ちょうどラッキー?かな

……なんか楽しみになってきた♪

「特別席だって〜なんかわくわくするね〜」

「うん!楽しみ!」


私達は招待券の裏側に書いてある地図を頼りに体育館の中を歩き回っていた。


……ってなかなか見つからないし…

もう探し回って15分。

「うーんどこだろ……」

美咲も難しい顔をして、
招待券とにらめっこ中。

「……あっ。めいは、
特に方向音痴なんだから、私から離れないでよ〜!」

……そうだった……
私、かなりの方向音痴だった……


「…うん美咲から離れないよう……




……ドンッ!!


「……っわ!!!」

……倒れるっ!!




……パシッ!



「っ!大丈夫!?!?」


……っ


……こ、転んでないっ……?



手首を見ると私はその人に掴まれていた。


「ごめんっ!怪我なかった!?」

わたしをかがんで見るこの人……




よく見ると……桜翔高校……!?


……!!しかも4番…キャプテン!!


「……あっ……大丈夫です……!」

「良かったぁあ」
そう言ってはぁ……とほっと肩を下ろす彼。


「って!これ激レアの招待券じゃん!!」

「……激レア!?」

「うん!!これめっちゃレアなヤツ!!」

招待券をまじまじと見てるし……

……この人……表情に出すぎ……


……!!

こういうのを顔に出てるって言うのかな!!





そしたら私、この人と似てるの……?





……ないない。



流石にこんなに顔に出てないよね……



「あ!俺、小日向 湊ね」

「……あっ!私は花咲めい!」

「ふぅん……めい!よろしくな!!」

そう言ってぎゅっと手を掴んで握手を
しだす湊……君。


……この人よく良く考えれば呼び捨てだし!


なんか私は君つけとこ……



「……うん!よろしく湊君!」

「えー、湊って呼んで!!」

「そんな初対面で…「やだ湊がいい」


……!!


また私の手を握りながら……!!


しかもなんかよくよく見たら




ーーーーーーすっごい美形……


って、じゃなくて!!

「湊君だから!!!」

「ま、俺はめいって呼ぶけどね〜」

「ちょっと……もうっ」


……なんかこの人といるとこの人のペースに流されるっていうか……


「ってこれあの綾瀬颯太からのなの!?」


あの綾瀬颯太って……

他校生にフルネームで知られるほど



ホント颯太何したの……

「……えっと……そうだけど」

「へぇ……付き合ってるの?」



「え!?!?私と颯太が?!」



この人……なんでそうなるの!!!



「っ付き合ってないよ!!」

「ふはっ!!全否定だなっ…!!」


そりゃそうでしょ……


「ま、こんなレアなのあげるって完全に
脈アリだろうけど……」



……脈アリ……?


……なにそれ…


「って来てるし!!」

「来てる……?何が……「それ、ここ曲がったらすぐだから!!!」




「……え「また会おうね、めい!!」



またって!!!っていうか……


来てるって……何が……


「あっ!!湊!!!」
「え!うそどこどこ!!!」


そう言いながら複数の女子が湊君を追いかけていった……

来たって……そういう来た、ね……





っていうか!!美咲!!



……うわっ!!あと5分で始まる!!



美咲、特別席にいるかも!!

特別席……そこを曲がって……


あっ!

曲がると「特別席」の三文字が
デカデカと書いてあった。


……よく私、気づかなかったな……



カチャ……



「めい!!!……よかった!!」

「美咲……!!ごめんね……!」

「もうっ!めいったら!心配したよぉ……
ほらほら!試合始まるよ!!」

「ごめんね美咲……楽しみだね!!」




周りを見渡すと特別席には二人分の席しかなくて、体育館全部を見渡せる、



凄い席だった……
激レア……。



確かに湊君の言ってた事間違いないかも……






ピーーーッーーー!!



審判の笛の音が響いて始まりを伝える。




「……えぇ!!!」

「ど、どうしたの?
いきなり大声出して……」


だって……


「……相手って桜流高校なの!?」


「そ、そうだけど……
それがどうかしたの?」



じゃ、湊君たちとの試合!?!?
グイッと前に身体を乗り出してよく見ると


「……やっぱり湊君がいる……」

「……え?めい、
あの小日向 湊と知り合いなの!?!?」

「……え?いや……さっき知り合って……」

「え!?!?さっき!?!」

「……う、うん……」

「小日向湊……通称…無敵のスマイル……」
「ほら!!」

美咲はぶつぶついいながら、
バスケ雑誌を私の膝に置く。


「……っんえ!?!」



そこには颯太と湊君の顔が
2面にバーーンと載っていた……



そういえばなんだか、颯太がいつもにまして
女子に騒がれてた時があったけ……



それに、誰かが
湊君って言ってた気もする……



「颯太も、湊君も高校バスケ界では
超有名なんだよ!!!イケメンって!!」

「そ、そうなの?!」



こんなに颯太の近くにいるのに……
初めて知った……



「ま、私も湊君を拝見しに来たような
ものだけどね〜」


「え!?そうだったの……!?」



……そうえば美咲イケメン好きだった……

確かに湊君、美形だったもんなぁ……



……ん?



……私ったら!!今は敵だから!!!




というか肝心な颯太……っと



私は体育館に一番近いこの席で
颯太を探す。


「……あ、いた」



颯太はコートに「お願いしますっ!」と
体育館いっぱいに響く声で挨拶しちゃって…



体育館の視線が一斉に颯太に注がれる。



また、目立ってるし……






ーーーーーードキッ!!




今……目があった……?……




そ、そんなことないよね……




たまたまこっち見ただ……



……!!!!




あれって……





颯太が右手に付けてるのは、


……私が上げたピンクのリストバンド。





私……あの事故の日に付けるはずだった
リストバンド颯太に病室で渡したんだっけ…



……颯太……まだ覚えてくれて……



あのリストバンド……
表に「必勝」って書いてあって……




あのリストバンドの裏には……






私の夢が書いてあるはず……


確か……





東海高校でキャプテンになる!!
絶対勝つ!!勝って勝って、
全国1位になってやる!!
誰にも負けない!!





って書いたはず……



……颯太はそれを……叶えるって……






「めい、あれ!!」
美咲の声の先に視線を落とす。





…………っ!!!!






颯太はこっちを向いて……






リストバンドの「必勝」の文字を上に
手を上げていた。
それから颯太は私に向かって

…………口パクをする。



それは……








ーーーーーーーー見とけよ




……っ!!



……颯太のバカ……


……ホント馬鹿なんだから……っ……




でもね?颯太、






……ありがとう


ピーーーッ!!!!!


審判の試合開始の笛が響く。



それと同時にボールも素早く移動して……
……懐かしい感覚が蘇る。



そっか……私もバスケ見るのなんて

あの日から、






2年ぶり……か……。



試合は刻々と進んで
どちらのチームも

次々とリングに入っていく。


でもあの時とは全然違って、





颯太も玲於も……凄い……!!





颯太はあの背の高さで相手チームのマークを
交わしてシュート……




それに
玲於と涼太のドリブルは
相手チームと比べものにならないくらい速い






この2年間で成長した3人に




私は一瞬も目が離せなかった。
80対55 でうちのチームがリードしたまま




ーーーーーーーー前半終了。





「……す、凄いね」
あのお喋りな美咲でさえ、試合中は黙って
ボールを目で追っていた。




「……でも相手チーム湊君出してないよね」

「……え?」


……うそっ!


「……めい気づかなかったの!?」

「……う、うん」




……私……うちのチームばっかみて……

相手チーム……見てなかった……


「それにしてもなんで湊君出てないんだろ」

「そう言われればそうだね……」



……確かに、湊君は4番キャプテンだし……


なんで出てないんだろ……




ピーーーッ



「只今より、桜流高校、
選手交代のお知らせをさせていただきます」



……選手交代?


もしかして……


「……選手変わって、




4番小日向 湊選手に交代です」



……やっぱり!!!



それから、





「うぉぉぉおお!!!!!!!」
「みなとくーん!!!!!」

多くの歓声で
体育館は一気に桜流高校のモードに包まれる





ピーーーッ!!!!

それと同時に審判の後半開始のホイッスルが





私の胸に強い予感を感じさせた。