はぁ………………
ちゃっちゃと応援団やらなんやらを
終わらせてめいの所に行こうと思ったら
めいが中庭に来て、少しでもかっこいいとこ
見せよーと思ったのに……
それがなんだよ……
めいは転けて知らねぇ男に
手を引かれてどっか連れていかれそうに
なって……
早く追いかけて保健室に行こうと思っても
全然女子の人だかりで動けねぇし……
洗濯機の残りの時間の表示の赤いランプは
15分と示していて、
めいといる15分はあんなにも短かったのに
1人のこの15分はこんなにも
長いものなんだと改めて感じる。
ほんと俺にとってのめいは
特別で、まじで大事な奴なんだよな……
つーか、今日めいの腕を掴んで保健室に連れていったやつ……
黄色のリストバンド付けてたな……
あれはスポーツ表彰に出たヤツしか貰えねえやつでバスケ部だと俺と玲於と
確か……サッカー部のエースの……
朝比奈 尚……
玲於ならすぐ分かるし……
尚しかいねえ……
俺と尚は部活のエース同士仲良くて
結構話したり、遊びに行く仲だ。
あいつは誰よりも正義感が強くて
誰とでも仲良くなれる……
なにより、男から見てもあいつは男として
かっこいい奴だ。
モテるのに
女経験が初恋に振られてから……
それからは一切ないっつーな……
(俺はねぇけど……)
それに女の子慣れもしてないから、
女の子になにかされると
顔が赤くなって照れるっていう……
そりゃ、女ウケもめっちゃいいワケ。
でも絶対自分から好きになった人としか付き合わないっていう意志があって
なんつーか
俺と価値観が合うんだよな……
でも……尚なら今日のは一安心……か…な…
ふぁぁぁあ……
あー……眠くなってきた……
ピーーーーーーッ!
その音で俺の眠気が一瞬で飛んでゆく。
あ、あれから15分経ったか……
洗濯機からめいの制服を取り出すと、
ちゃんと乾いていた。
畳んでバックに入れてっと……
めいの言う仕事っつーのの進み具合でも
見にいくか!!
と意気込んで小走りで
生徒会室に向かった。
生徒会室のある3階へと1階の保健室から
二段飛ばしで階段を駆け上がる。
「あれぇ?颯太ぁ?」
この甘ったるい声は…………
雛だ。
「颯太ぁじゃんっ!!こんなところでぇ
会うなんて運命かもぉ!!♡」
「あー、うんそーだなー……」
「でしょぉ?雛もそう思うなぁ……!
雛とおしゃべりしよぉう?」
「……あーまた明日な?」
めいにはやく会いてぇ……
雛と話しててもめいが浮かぶ……
そんな時、廊下から馴染みある声が響く。
「えーじゃあ尚は?いないの?」
「は?!俺かよ!!」
「だって尚がーー……」
俺の思考が停止する。
だってそこには尚とめいが二人で
笑い合いながら歩いていたから。
しかも…………すげぇお似合いだから。
バックボードがようやく終わって6時半。
帰ろうと準備を進めている時、
尚の一言で私の手は止まる。
「ねー……めいは恋愛した事ある?つーか
今とか……恋してる?」
「……ふぁ!?い、いきなり何言うかとおもったら……」
「んー単純な疑問。つーだけ……
でも、めいなら今までも彼氏とか
結構いそうだなぁ……」
そういいながら
楽しそうに話す尚に
私は少し戸惑う。
だって……私は
「いやっ……私は…………
今まで恋愛したこと無くって…………」
「え?」
「……うん……なくって……」
「ええ!!?!?!」
……目を見開いて驚く尚。
「ちょっとそんなに驚かなくても……」
「いや、だっていそうだし……!
え、じゃあ恋したことねーの?!」
「えっと……恋するってことが
あんまり分からないと言うか……
それが最近の悩みでもある……」
「へぇ〜 意外。」
尚がガラガラとドアを開けて
二人で教室を出る。
「えーじゃあ尚は?いないの?」
「は?!俺かよ!!」
「だって尚がーー……」
……あれ?あそこにいるのは……
颯太?
「……颯太!」
そう言って小走りで
こっちに向かってくるめい。
でも……
なんで?
……仕事じゃなかった?
なんで尚といんだよ……
どーして俺じゃなくて尚といんだよ……
「あ!尚に仕事手伝って貰っちゃったけど…バックボード終わったよ!!」
……なんで尚?
生徒会の仕事なら俺に頼れよ……
なんだ……やっぱ特別なのは俺だけで
めいにとって俺は
幼馴染つーだけで、特別でなくて
やっぱ頼られもしねーよーな
存在なんだよな……
分かってた、分かってたんたけど……
……そんな自分に嫌気がさす。
「あ、颯太じゃん!めいと知り合い?」
尚がそう言って優しく笑う。
尚は良い奴でかっこいいから……
こんな奴といたらめいでさえ惹かれるだろ?
だめだ。
やきもちが止まらねえ……
「めい、仕事じゃなかったワケ?」
「え?仕事……?」
この四人の空気が静まる ーーー。
「俺に仕事って言って
颯太には関係ないって……
そういう事……?」
「え?……違くて……颯太に内緒で……」
「内緒で……か」
「颯太……?」
「そ。はい。これ制服。」
「あ!ありがと颯太……帰ろう?」
めいは俺を見上げて笑う。
でも、今日はダメだ……
これ以上一緒にいると……
やきもちが止まんなくなりそーで……
「ごめん。俺今日雛と帰るわ」
「え?」
「え?雛とぉ?」
雛はキョトンとしている。
そう言って雛の腕を掴んで「帰ろう?」と
微笑むと雛は「うん!」と
嬉しそうに笑った。
靴箱に着くと
「颯太ぁ……雛わかるよ」
と雛は俺の目を見て言った。
「えっと……何が?」
「颯太、めいちゃんの事すきでしょぉ?」
「……え?」
少し笑って、少し悲しそうに、
雛はそう言う。
「それってねっ……凄く凄く辛くてね?」
多分、雛にはバレてて
雛は俺が逃げ出すために
雛と今帰ってることも分かってる。
「でもね?雛わぁ……
それでも颯太が好きだよぉ」
雛の目には涙がキラキラと輝いていて
雛の真っ直ぐな想いが俺を動かす。
でも……
「……雛……俺は…「分かってるよ……?
でも……でも……
嫌になったら雛の所に
来ていいんだからねっ……?
雛はずっとすきだからねっ……
颯太が幸せで颯太の役に立てるなら……
雛を利用してもいいんだよっ……」
雛は本気で俺の事が好きで
俺のために犠牲になってもいいって
思ってる……
でも俺は、雛を利用して傷つけて
めいを好きにならせるなんて……
絶対しないから ーーーーー
「何言ってんだよ……っ!
利用なんてするかよっ……!」
わしゃわしゃと雛の頭を撫でる。
「雛の気持ちは受け取ったつーのっ!!
つーかだいぶ前から受け取ってるつーか?
雛の良さは前から知ってるつーの!!」
「そーだったねっ……えへへっ……」
「だから雛の想いは無駄にしねーから」
「……うんっ!!」
そう言って雛と俺は
たくさん話しながら帰った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
雛と出逢ったのは、去年の3月頃の事。
雛は俺らの一個上の先輩から告白されて
好きじゃないから付き合わなかった
つーだけで、
その先輩ファンから呼び出されて
5対1で戦ってる所を
たまたま俺が助けたつーだけだけど……
その瞬間、一目惚れされて
次の日に告られて……
二年になって俺と雛が同じクラスになって…
また出逢って……
でも、俺のめいへの気持ちが分かって
辛かったよな…………
ごめんな……雛。
そして、背中を押してくれてありがとう。
颯太………………
いっちゃったよ…………
「へ〜……」
尚はにやにやしながら私を見る。
「な、なによ……」
「えーもしかしてめいちゃんって
颯太の幼馴染だったりする?」
「え……?うん、幼馴染だけど……」
「……やっぱ?」
「それがどーしたの……?」
「まじか……」
「ねぇ、さっきから会話が噛み合ってないんだけど……!!」
尚ったら1人で納得するんだから……!
「で!?何のことなの?!」
「へー颯太のやきもちかあ……レアだね…」
「また会話噛み合ってない……」
「要するに、めいは颯太にバックボードを
仕事って言って、俺がいたから……
勘違いされたかな……」
勘違い……?どういう……?
「えっと……どういうことですか……?」
「あ、そっか天然だったね……」
……え!?!!!
「天然?!!そんなこと言われた事ない…」
「あーそういや自覚症状なかったわ……」
……自覚症状!?!!!!
もう今日は色々この人に影響されてるな……
「でも、めいはなんで……
仕事って……
ちゃんと颯太に言わなかったの?」
「そ、それは……」
……颯太に負担をかけたくなくて……
1人でしたかったから…………
「それに、あいつの事だから俺とめいちゃんが付き合ってるのかとか思ってそうだから……」
「そ、そんなことないっ!!」
「そんなに強く言わなくても……でも」
「その想い、颯太に言ってみれば?」
「え?」
「誤解ときな〜
すぐ解かないと……
体育祭までズルズル引きずるよ〜……」
そう言いながらバックを肩にかけて
手をひらひらと振って
帰って行った。
「ちょっ…………」
……颯太絶対怒ってたよね……
颯太に嘘ついたことになるもんね……
それに、颯太に制服任せたまんまで
私が笑ってゆったり話してたら
イライラするよね……
私ってほんとにバカだな……
人の気持ちも考えられないなんて…………
でも…………
颯太も雛ちゃんといたじゃん……っ……
尚には手伝って貰っただけで……
何にもなくて……
私にそれで怒るなら……
雛ちゃんといつもイチャイチャしてるのは
颯太の方でしょ……?!!!
……昨日の夜は全然……眠れなかった……
だめだ……。
颯太の事が頭から離れない……。
しかも考えれば考えるほど…………
もし雛ちゃんと颯太が付き合ってたら……
って考えたら……
ズキッ……って心が痛い……
多分それは雛ちゃんだけじゃなくて、
他の女の子で私より颯太に近い人がいて
いちゃこらして ーーーーーーー
うわぁ!!!!!!!だめだこれは!!!!
なんだろう……私……
颯太に近い存在で ……
多分それが当たり前で……
当たり前のことが
いきなり当たり前じゃなくなると…………
私以外に私と同じ事されるとーーーー
すごいムズムズするっ…………
「なに1人で1人劇してんの」
「うわぁ!!!!!!!美咲っ!!!!」
「おはよ」
「うぅ……おはよぉ……」
私の顔を見るなり驚く美咲。
「なに……!!その……くまヤバイよ!!」
「……え」
「……ちょっと……トイレいくよほら!!」
美咲に手を引かれて、トイレに行って
鏡で自分の顔を見る。
「うわ……凄いくまだ……」
「って気づかなかったの?!」
「…………うん」
美咲は心配そうに私の顔をのぞき込む
「どうしたの……めい?」
「……美咲……相談乗ってください……」
美咲は一瞬凄く驚いた顔をして
「なに、当たり前でしょ?!
今日の放課後、いつものカフェ行くよ?!」
「うぅ……ありがとう……」
放課後の約束をして
教室に戻ると、隣の席には…………
颯太がいた。
颯太………………
「…………。」
「………………。」
どうしよう…………昨日のことから
上手く声がだせ……な……い
話しかけれな……いよ……
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴って私の緊張は少しほぐれる
でも……でも……
話したいのに……伝えたいのに……
言葉にならない……
どうしたら…………
「めい」
…………颯太?
「え……っと……はい……っ」
……ダメだわたし今凄く緊張して……
「呼んでる」
「……え?」
呼んでる……?
「尚が」
「尚?」
今の私は何もかも全然頭に入ってこない。
「だから……」
そう言いながら颯太はドアを指さす。
颯太の指さす方向を、見るとそこには
尚が手を招きながら私を呼んでいた。
「あ……っ……颯太ありが…と…」
昨日の今日で……
ダメだ言葉が詰まる……
「……ん」
颯太はいつも通り、ん という返事をして
私からそっぽ向いてしまった
私はパタパタとドアへ向かうと、
「尚……おはよう」
尚は驚いて、心配そうに、
「なに!どーしたの?体調悪そうだし……」
「……え?そ、そんなことないよ大丈夫…」
…少しクラクラする…
…けど……
私は今日頑張らないと…………
生徒会長として……また颯太ばかりに……
任せるわけにはいかないから……
それに……昨日の誤解も解かないと……
このまま……颯太と上手く話せないのは……
凄く……凄く…………
嫌だよ……
「その調子じゃ大丈夫じゃ無さそうで?」
…………感覚が宙に浮く 。
なんだろうこういうのを…………
すごい、ふわふわする…………
それと同時に「キャーーーッ!」という
女子の黄色い声が廊下に響く。
……でも今の私には全然何も考えられなくて
気づいた時には自分の部屋のベッドにいた。