静かな、都心部の住宅街。
朝8時。
近くに商店街が位置しているこの場所では、
朝から犬の散歩などで歩き回るおばさん達も多かった。


「あらぁ〜 小咲ちゃん!今日から高校デビュー?」

小さなトイプードルを連れた、優しげな顔のおばさんが声を掛ける。

小咲は、足早に駆けていた足を止め、
くるりと後ろを振り向くと、黒く短い髪に埋もれた顔をコクッと縦に振った。

「よかったわねぇ〜 いってらっしゃっい!」

満面の笑みで見送られると
小咲は、もう一度頷きまた駆け出した。


早くしなくては。
転校初日から遅れてしまう。


街中を駆け抜けていると、突然目の前に大きな影が現れた。
よく見てみると、頭が大きく、体の50倍くらいの大きさで、
顔のパーツがおかしな付き方をしていた。

思わず立ち止まると、
急に背中に鈍い衝撃が伝わってきた。
後ろを振り向ききる前に、低いドスの効いた声が上から降ってきた。

「おい。そこの根暗女。急に止まってんじゃねぇよ。」


上に目線をやると、そこには不機嫌そうな男の顔があった。

身長は高く、180cmぐらいだろうか。
顔が小さいため、更に高く見える。
顔立ちは整っていて、すらりと高い鼻にバランス良く付いた切れ長の目。
眉は細く、真顔でもイラついてるように見えるだろう。
男の癖に白く透き通った肌で、真っ黒なざんばら髪がよく映えていた。
耳には左右それぞれ違う種類のピアスを、3個ずつ付けており、チンピラっぽさを増長させていた。
年齢は恐らく同じぐらいだろう。
制服の様なものを着ていたが、どこの学校のものかまではわからなかった。
ボタンを開け、ネクタイも付けずに中には趣味の悪い真っ赤なTシャツ。
スタイルが良いせいか、上手いこと着こなしているから憎たらしい。


小咲が無言で男を観察していると、
痺れを切らした男がポケットに手を突っ込みながら
思いっきり小咲の肩にぶつかった。
そのまま歩いて行くかと思いきや、こちらを振り向くと
フンッと鼻で笑いながら人混みの中に消えていった。




現在、遅刻まであと30分。