「……祐樹、これはいけんじゃねーかっ?」
俺を持ちながら肩で大きく息をする彼らが、
目の前を見ながら口角を上げる。
「どうかな。残念ながら、まだ1番の強敵が残ってるんだ」
まっすぐ前を見据えていれば、静かな炎を宿した彼の瞳がこっちを向いた。
「まさか、最後に残るのが俺たちだけとは思わなかったな……恋心は怖いものだね」
上がった息を整えていると、彼が一気に距離を詰めてくる。
「……っ、」
「ハチマキを寄越せっ!」
野球部のエースだという彼の腕の力はその顔からは想像もつかないほどに強くて、俺は騎馬から落ちないように彼と繋がった自分の手に力を入れた。
「俺の気持ちとしては、ぜひあげたいところなんだけど……彼女に頑張るって宣言しちゃったから、諦めるわけにはいかないんだ…っ」
「何言ってるかわかんねーよっ……いいから、
寄越せ!」
組んでいた手を力任せにほどいて掴みかかってきた彼を、俺は真横に体を流して避ける。
「ごめんね。俺は力より頭を使うタイプなんだ」
勢いあまって前に倒れてくる彼の頭に手を伸ばして、俺は巻かれていたハチマキを取った。