「っていうか、雪も雪よ」
「え?」
「黙って見てないで!ちゃんと茜ちゃんのこと守ってあげなさいよ」
「あぁそうだな…悪かった」

突然火の粉が飛んできた雪さんは一瞬目を瞬かせたけれど、すぐにさらりとかわしてみせる。

「相変わらず余裕ぶるのは得意みたいね。…余裕ないから引き離したくせに」
「何のこと?」
「まあ父さんが言ってたみたいにいい経験になるとは思うけど…2年後いい男になって帰ってきたこの子にするっと奪られちゃわないようにね」
「そんなに長引かせるつもりないから」

さっきから何の話してるんだろう…
っていうか、あれ?里香さんと雪さんってこんな感じなの?

もっと穏やかというか、尊い関係を思い描いていた私にとって目の前のやりとりの様子は思っていたより激しめだったというか。
…そんな私の思考を引き戻したのは、不意に聞こえた控えめな声と開いた扉だった。

「失礼します。あーまたそんな酔っぱらって…帰るぞ、送ってく」
「…ほんと過保護」
「これも俺の大切な仕事のうちなんだよ。みなさんご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「ちょっと桂ちゃん!」

桂ちゃんと呼ばれる男の人が里香さんのマネージャーである三澄さんだと思い出したときには、里香さんはなんだか子どもみたいに不貞腐れていて。
三澄さんの口調はまるで保護者みたいでもあったけれど、優しく諭すその瞳はとても温かい。

…この2人って、タレントとマネージャーだよね?
なぜか芽生えたそんな疑問は、次の雪さんの一言で解決されることになるのだった。