「あ、落ちた」
いい感じにお酒も進んだ数十分後。
誰よりもハイペースでグラスを開け続けていた編集長が、ついに机に突っ伏した。

「寝てますね」
「ですね」
穏やかに寝息を立てて眠る編集長は、見るからに幸せそうである。

少しそっとしておこう…
そんなことを考えながら規則正しく上下する肩へと上着を掛けると、不意に視線を感じて顔を上げた。

「茜先輩のそういうところ、良いですよね」
「え?」
「さりげなく他人を気遣えるところ…素敵だなって思います」

本日2度目の天使からの攻撃を受け、衝動的に顔に熱が集まってしまい思わず俯く。

「あ、髪に何か付いてますよ?」
追い打ちをかけるように伸びてきた槙くんの手が、私の前髪をさらりともてあそぶ。

「…あんたね」
「う、わ…っ」
近付いた距離に構えるよりも先に、身を乗り出した里香さんが槙くんのワイシャツの襟元を後ろから引っ張った。

「何すんだよ、里香!」
「あんたが茜ちゃんにちょっかいだすからでしょ」
「俺は正々堂々茜先輩のこと狙うって、ちゃんと宣言してるんだよ」
「ちゃんとっていう言葉の使い方間違ってるから」

ぴしっと一括してくれる里香さんに、心の中で手を合わせて感謝する。
けれど目の前で繰り広げられる光景からは2人の関係性が垣間見えて…なんだか少し、微笑ましい気持ちにもなった。