そもそもなぜこんなド平日の夜に送別会をすることになったのか。
…それは、急に決まった槙くんの海外行きが理由だった。

「出発、明後日なのよね?」
「そうなんです。ほんと急な話で…親父も何を考えてるんだか」

編集長からの質問に答えてビールジョッキを傾ける槙くんの顔には、ほんのりと苦笑が浮かんでいる。

今回の件は、槙くんのお父様…もとい、うちの親会社の社長から下りた直々の命らしい。
経営の勉強をするためにアメリカに最低でも2年、そんなことが昨日今日で決まるのかは少し疑問なところではあるのだけれど。

でも、それだけお父様に期待されているということなのかもしれない。

「でもやっぱり寂しくなるわね、ねぇ柏木さん」
「えっ…あぁはい、そうですね」
「あ、今間があった。ひどいなぁ茜先輩」

突然話を振られて慌ててした抜けた返事に、すかさず突っ込みが飛んでくる。
そんな台詞とは反対にその瞳はなんだか本当に寂しそうに見えて…

「本当に寂しいって思ってくれてます?」
不覚にも一瞬うるっときそうになった私の涙腺は、その後に見えたにやっとした意地悪な微笑みを受けてすぐに引き締まる。

危ない、また騙されるところだった…
心の中でふぅ…と小さく深呼吸をしてから、私は手元のビールを口に運んだ。