「誰が王子様だって!」

とうるさいいつもの大きな声が病室内に響いた。

「遅かったか.....」

柊馬は頭をかかえうつむいた。

「やっぱお前は王子なんだな」

「よかったね、王子様」

「すてきだね、王子様だなんて ~」

「お疲れ王子」

とみんなが柊馬をからかうように次々に彼の肩に手をおいた。

なんでみんなはこんなに嬉しそうなのだろう......

そう私が不思議に思いながらみんなを見ていると

「ああ、言ってなかったな。こいつ、学校では王子って呼ばれてんだっ!なっ!」

と大輝が柊馬の背中をたたいて言った。

しかし柊馬は動じず下を向いている。

柊馬が王子?

本当に柊馬は王子様だったんだ......

「だから私たちなんだか嬉しかったの」

そう言ってみさとが優しく笑った。

「どうして?」

すると愛梨が目を輝かせて

「白雪姫と王子様なんて、本当にすてきなお話でしょ」

と言った。


「何がすてきなお話なの?」

といきなり良子とつぼみが入ってきた。

「ああ、柊馬が王子って呼ばれてたって話だ」

やめてくれっと言った感じで柊馬が顔を上げた。

しかし遅かったようだ。

「白雪姫と王子様ってことか!」

「すご ~い!」

「じゃあこれからは王子って呼べばいいのね!」

と2人は興奮している。

すると

「あら、みんなお揃いで何を楽しそうに話しているの?」

と明子さんが入ってきた。

「明子さん!この2人は本当に白雪姫と王子様だったって話をしてたの!」

つぼみの言葉に明子さんの顔がさらに明るくなる。

「そしたらこれからは柊馬くんのことを王子様って呼ばなきゃね」

と私たちを茶化すように明子さんは言った。

「はい!」とみんなの声がそろう。

「これだから王子っていうあだ名は嫌だったんだ......」

と柊馬は小さな声でつぶやいて再びうつむいてしまった。

だけど、なんだかそれは寂しい気がした。

だから

「柊馬」

私が名前を呼ぶと彼は「ん?」と言って顔を上げた。

「でも、もし柊馬が王子って呼ばれてなかったら私たちがこんな風に出会えてなかったかもよ?」

私がみんなに聞こえないくらいの声でそう言うと

「そうだな」

と柊馬は私に微笑みかけた。

「そうだぞ!俺たちが王子って読んでたからお前たちは運命の出会いができたんだ!」

と大輝が大きな声で自慢げに言った。

一番聞かれたくない人に聞かれてしまったようだ。

みんなも

「そうだそうだ!」や「感謝しなよ!」

なんて調子のいいようなことばかり言い始める。

「はあ」

私と柊馬のため息がそろった。

2人で笑い合う。