~柊馬side~
あの日から1週間がたった。
部活が忙しく、なかなか病院に来ることができなかった。
今日も彼女に会えるだろうか。
「柊馬、もうちょっとゆっくりおしてくれねえか。坂って怖いんだよ」
そう文句を言っているのは大輝だ。
今日は少し涼しそうだから外へ出たい、そういうから連れてきてやったのだが
「お前、車いすの操作下手だな」
とずっと文句を言われている。
まったく疲れるのは俺だというのに。
「止まれ柊馬」
「どうした大輝?」
大輝を見ると横を向いたまま動かないでいる。
「大輝?」
俺は大輝の視線の先を見た。
そこには川に入って遊んでいる藤白さんの姿があった。
彼女は上を見上げている。
木漏れ日に照らされた彼女の横顔はとても美しかった。
彼女の方を見ているともう1人と目が合った。
「じゃあ先戻ってるから」
そう言うと大輝は戻って行ってしまった。
「ま、まて!」
すると彼女といたもう1人も病院の方へ走って行った。
「まってよ!」
彼女はそう叫ぶと川から飛び出した。
ふと彼女と目が合った。
どうすればいいのだろうか。
俺が悩んでいると
「あの……」
と彼女の声がした。
いきなり話しかけられたので驚いてしまった。
しかし彼女は何も言わずにうつむいてしまった。
どうしたのだろう……
「藤白さん」
いつの間にか彼女の名前を呼んでいた。
「は、はい」
彼女は顔を上げた。
何を話せばいいのかもわからない。
だけど彼女はきっと勇気を出して俺に話しかけたんだと思う。
だから俺も……
「あの、少しお話しませんか?」
と言って無理やり笑った。
彼女は小さく「はい」とだけ答えた。
俺たちは中庭のベンチに座ると目を合わせることもなく時間だけが流れていった。