私が話しかけると彼は驚いたようにこちらを見た。
でも、そこからどうすればいいのかわからなかった。
私がうつむいていると
「藤白さん」
と彼の声がした。
「は、はい」
「あの、少しお話ししませんか?」
と彼は優しく言った。
私はなんとこたえればいいかわからず「はい」とだけこたえた。
私たちは中庭のベンチに座ると目を合わせることもなく時間だけが流れていった。
でも、緊張してて何も言えないでいた。
とにかく何かを話そう。
「あ、あの車いすの人はお友だちですか?」
恐る恐る彼にたずねると
「ああ、あいつは高校の友だちで骨折して入院してるから時々見舞いに来ているんです」
そう言って彼は困ったように笑った。
「そうなんですか……」
私から聞いたくせにまともに返事をすることができなかった。
次は何を話せばいいのだろう……
私が悩んでいると
「あの……」
と彼が話しかけてきた。
「はい」
何か聞かれるのかな……
もしかしたら病気のこととか聞かれてしまうのだろうか。
今まで病気について聞かれたり、話したりすることは何回もあった。
それはとてもつらいものだった。
だから……
「あの、藤白さんは毎日子どもたちに絵本を読んでいるんですか?」
予想外の質問に私は戸惑った。
てっきり病気について聞かれるものだと思っていたから。