「帰るぞ、王子」

「だから王子はやめ……」

「王子」

「王子様」

「みさとに愛梨まで……はあ………」

「あれ、大輝は?」

「まあそのうち来るだろ」

「ほっとこ」

相変わらず昂とみさとは大輝に対して冷たい。

俺たちが門に向かって歩いていると

「まてぇぇええ」

後ろから叫び声がする。

まさか……

絶対に振り向かない方がいい。

ささっと行こ……

ドスッ

「いっ」

「いっ」

気がつくと俺と昂は地面に倒れていた。

見上げると大輝が自転車を持って笑顔で仁王立ちしている。

楽しそうに笑っている大輝を見ていると自分もつられて笑ってしまい、怒る気には
なれなかった。

ため息をつき立ちあがろうとした時だった。

ゆっくりと昂がゆっくりと立ち上がった。

顔を上げ大輝を見た昂の目は感情がどこかへ行ってしまったかのような恐ろしいものだった。

その目を見た瞬間、大輝がフリーズした。

彼の顔から笑顔が消える。

「自転車があたったんだけど」

「はい」

「なんでかな」

「俺が突っ込んだからです」

「へー」

「本当に申し訳ありませんでした」

たんたんと話す昂と、深々と頭を下げる大輝。

普段はおとなしい昂だが、怒るととても怖い。

そんな2人の姿を俺たち3人は少し離れたところから静かに見ていた。

すると昂が大輝を置いてこちらへ歩いてくる。

「いこう」

そう言って昂は門の外へ出て行った。

大輝はまだ立ち尽くしている。

みさとが大輝を連れてくると俺たちは昂の後を追った。