「ふうん、まあどうだっていいや。
描ければそれでいいもん。
あ、そうだ、鍵は飛鳥が持ってるの?」



「ああ、まあね。
まさかあんなとこからやって来る女子がいるとは思ってなかったな」



親指を私が越えてきた三階の窓に向けてそう言われると、なんだか恥ずかしくて。



「どうしても行きたかったの」



頬を膨らませてそう言い返すと、おかしそうに目を細めて笑われる。



「へえ、ところで5分前くらいにチャイムなったけど、いーの?」



「へ…嘘でしょ…早く教えてよ!」



真剣に話していたせいで全然気づかなかった。


どうしよう、記憶が正しければ5限目はこの学校で1番厳しくて怖くて有名なペリー先生の授業だよ。



部活命の優菜はよく宿題を忘れて、追い回されてるし、


筋金入りの不良の瑠衣は校則丸無視の姿で、服装頭髪検査のたびにみんなの前で見せしめのようにこっぴどく叱られている。



2人は慣れているせいか、説教も適当に相槌を打って受け流しているけど、ずっと真面目に生きてきた私はそんなの慣れていない。



あの、迫力満点で学年フロア一帯に響き渡る怒鳴り声と、鋭い眼光を私にだけ向けられるのを想像したら居ても立っても居られない。



慌てて、元来たガスタンクの上に飛び降りようとしたら後ろから手首を掴まれた。



「馬鹿。なんでまたそこから帰ろうとしてるんだよ。ドアから普通に帰れ」



「でも、こっちの方が近い…」



窓と飛鳥を交互に見比べながらそう訴えると、飛鳥は無理やり私を引っ張ってドアの前まで連れて行った。



そして、ドアを開けて私の背中を強く押して追い出した。



「お前鈍臭そうだから絶対2度目は無事じゃないっつの。
次あそこから来たらもうモデルやらないから」



「えっ、わかった!こっちからちゃんと来るね!
じゃあ、バイバイ!」



手を何度か振って、そのまま階段を駆け下りる。