「そう、なの。
それにしても、兄がいるのに秋人が次期社長ってことは、あの人はよっぽど出来が悪いの?」

「いや......、兄は自分で会社を立ち上げて経営している。性格には問題はあるが、昔から新しいことを始めることや人を引っ張っていく力には優れている人だった。
俺は父の所有する会社のうち一つを任されていたに過ぎない。兄と違って言われたことをこなすのは得意だが、それだけだ。兄のようなバイタリティはない。
本当は、ああいう人間の方が人の上に立つのによほど向いているのかもしれないな」


いつもは余裕たっぷりで、2つしか変わらないのにずっと大人な秋人が初めて見せた弱気な姿。

自嘲したように笑う秋人に、今までに感じたことのない感情が浮かびあがってくる。この人を守ってあげたい、と。

それは、弱っていた猫を見た時の気持ちと少しだけ近いのもしれない。


「言われたことをこなせるだけでもすごいことよ。
私は人から言われたことをこなすのが大嫌いだし、できない人間よ。世の中にはそういう人間もいるのよ」

「美妃はそうだろうな」


全く慰めにもなってなかったかもしれないけど、秋人はくすりと笑って、優しい目で私を見つめる。