思い切って押した発信ボタン。


携帯を耳に当てて、機械音が聞こえてくるのを待つ。


膝を三角に折って座っている私は、顔を膝に当てて目を瞑った。


早く…早く…、




『もしもし。』




何コールかの機械音が鳴って、それを破った声。


大好きな、優しい声。




「奏多くん…?」


『桃?』




久しぶりに聞いた奏多くんの声に、私の心は緩んで涙が溢れる。




「シュウトが…、族に追いかけられてて…、」


『今どこ?』


「水沢の近くの、空ビル、」


『すぐ行くから待ってて。』




それだけ言って切れた電話。


…彼は、助けに来てくれる。


この間、あんなこと言ったのに。


嫌いなんて…、言わなきゃよかった。


私は隠れる机の下で、小さく震える手を握りながら奏多くんが来るのを待った。