「こんな事になっちゃって、悪かったな」


湯気の上がるマグカップを掴んで、少しだけ口をつけた一ノ瀬さん。

そして、そのまま私の顔を見ずに小さく呟いた。


「お茶まで、ご馳走になって」


ゆっくりと上げた一ノ瀬さんの瞳が私を映す。

黒いビー玉みたいな瞳が、申し訳なさそうに微かに歪んだ。


どうしてかな。

その姿から目が離せない。

吸い込まれそうな、その瞳が。

微かに持ち上げられた、唇が。

私のすべてを磁石の様に引き寄せる。


こんな人、初めて会った。

見栄とか恥とか関係なく、繋ぎ止めておきたいと思えたのは。


だからかな?

知りたくて、堪らない。

あなたの事が知りたくて。

堪らない――。