「資料、濡れなかった?」


ポタリと真っ黒な彼の髪の先から滴が落ちるのを見ていたら、一ノ瀬さんが伺うように、そう切り出した。

その言葉に我に返って、急いで頭をコクコクと縦に動かした。

思わず見惚れていた自分を隠す様に、笑顔を作りながら。

そんな私を見て、一ノ瀬さんは安心したように息を吐いた。

その後、あまりにも濡れていたからドライヤーで髪や服を乾かしてもらった。





「――・・・・・・あの、お茶淹れたんで飲んでいきませんか?」


しばらくして、ようやく服も髪も乾いた彼がリビングに顔を出した。

その姿を見て、ホカホカと湯気の上がるマグカップをテーブルの上に置いて、微笑む。

なんだか、そのまま帰ってもらうのも気が引けたから。


「ありがとう」


すると、一瞬瞬きを繰り返した一ノ瀬さんだったけど、いつもの様に瞳を垂らして笑った。