だけど、月日が流れるごとに心の奥にあったその気持ちにも蓋をした。
期待する事を止めた。
惨めなだけだったから。
寂しくなるだけだったから。
だから、忘れようと心に決めた。
穏やかで何も変わらない日々に、埋もれてしまおうと心に決めた。
本当は忘れる事なんて出来ないと分かっていたのに――。
流れる涙を拭って、ゆっくりと顔を上げる。
そこには、優しく私を見下ろす彼がいた。
真っ黒な傘に覆われて、2人だけの世界になる。
いつかの夜の様で、懐かしさが蘇った。
肩を寄せ合って、笑い合ったあの日々が。
ねぇ。
もう一度あの日に戻ってもいいのかな。
もう一度、この手を取っていいのかな。
幸せになってもいいのかな。
「柚葉」
何も言えずに涙を流す私に、彼の優しい声がかかる。
導かれるように視線を上げると、優しく微笑む彼の姿があってまた涙が一筋頬を伝った。
「柚葉に出会って俺の人生は変わったんだ。好きな人を心の底から信じる事がこれほど大切な事なんて知らなかった」
「――」
「誰かをこんなに好きになった事も、失いたくないと思った事も初めてだった。離れて、あんなに辛い気持ちになった事も」
髪を撫でる大きな手が。
涙をすくう様に瞼の下を流れる指が。
優しさで溢れている。